第1回「病院DXアワード」(CBnews主催)で、初の大賞に輝く製品・サービスは-。続々とエントリーが集まる中、4人の審査員に、病院DXへの思いを聞いた。2回目は、病院DXアワード審査員の社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長・神野正博氏が、DX投資への経営判断を語った。
病院のDXは他業界に比べ遅れています。経営者がどれだけ「危機感」を持っているかによって対応に差が出てきています。
危機感は地域によってさまざまですが、当院のある石川県七尾市は高齢化や人口減少が進んでいることから、「人がいなくなること」に強い危機感を持っています。人口減少は患者数の減少、生産年齢人口の減少は将来の病院運営における人材不足につながります。今後、多くの人材を雇ってゆとりのある働き方をすることは、あり得ません。最低限の働き手で、いかに医療の質を維持するか、それを支える働き方を確立するかが最重要課題だと考えています。働き手が減少する中で、健康寿命を延ばし、シニア人材が働ける環境を整えることも必要となるでしょう。これを実現するためには、効率化と業務の質を担保するためのシステム改革、つまり病院DXが不可欠となるわけです。
病院が生き残るためにDXに取り組むわけですから、補助金や診療報酬がないことを理由に後回しにするのではなく、積極的に投資をすべきでしょう。
DXはエアコンのようなものです。昔の病院は窓を開けて扇風機を回していましたが、今やエアコンが当たり前です。補助金の有無にかかわらず、社会の変化に応じた必要な投資として、エアコンが病院に設置されました。それにより、入院環境や労働環境は大きく改善されました。DXはそれと同じではないでしょうか。DXは患者さんや働き手の環境をよくするための社会変化に対応した投資です。
病院でDXを推進するポイントとして、▽Redesign(リデザイン=仕事のやり方をゼロから見直す)▽Reduction(リダクション=仕事を削減し効率化を図る)▽Reskilling(リスキリング=時代に合わせてスキルアップする)-という「3つのR」があります。
特に大切なのはリスキリングです。DXを推進する上では、DXに強い人材が必要ですが、当院では、医療従事者の中からDXに興味のある人材を育てています。
DXの人材育成のポイントは企業との連携です。例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しましたが、マニュアルを基に進めるやり方では限界がありました。そこで、RPA企業からのオンサイトサポートを受け、実践的な学びを取り入れ、導入から短期間で効果を出しました。単にテクノロジーを導入するだけでなく、実際の業務にどう落とし込むかを考え、DXを進めることが大切です。
病院におけるDXは、単なるデジタル化にとどまらず、患者さんや働き手の環境改善を進めるための仕組みです。病院が持つべき危機感を基に、これからの医療の質を担保していくためには、必要な投資としてDXを推進すべきだと考えます。
神野正博 氏
社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長
1980年日本医科大学卒。86年金沢大学大学院医学専攻科卒(医学博士)。金沢大学第2外科助手を経て、92年恵寿総合病院外科科長、93年同病院長(2008年退任)、1995年特定医療法人財団董仙会(2008年11月より社会医療法人財団に改称、14年創立80周年)理事長。11年社会福祉法人徳充会理事長併任。専門は消化器外科。全日本病院協会副会長、日本病院会常任理事、日本社会医療法人協議会副会長、石川県病院協会副会長、サービス産業生産性協議会(SPRING)幹事、七尾商工会議所副会頭ほか。現在、社会保障審議会医療部会委員などを務める。
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